連日40度近い猛暑日が続き、エアコンをつけっぱなしにしても室内がなかなか涼しくならない。室外機からの排熱で、さらに外が暑くなるという悪循環。近年のヒートアイランド現象の深刻化により、都市部の暑さは年々厳しくなっています。
しかし、昔の日本の住まいには、エアコンに頼らずとも夏を涼しく過ごす工夫が息づいていました。深い軒に縁側、通り抜ける風、木陰のある庭──。

建物の性能向上だけでなく、周辺環境や暮らし方もあわせて見直すことで、猛暑を快適に乗り越えられる住まいが実現できるかもしれません。

 古来、日本の家屋は涼しかった


エアコンのない時代、日本の住まいには自然の力を巧みに活用した涼しさの仕組みが備わっていました。

通り庭や通り土間、田の字型の続き間による風の通り道。
深い軒や庇による日射コントロール。
土壁や無垢材、漆喰など自然素材の調湿効果。

これらの伝統的な知恵は、現代の省エネ住宅にも十分活用できる要素であり、自然素材の住宅への活用が改めて見直されるとともに、『パッシブデザイン』として自然エネルギーの活用も推奨されています。

» 夏なのにエアコンいらず?古民家に学ぶ、涼しい家のつくり方


ヒートアイランド現象と家の暑さ

都市部の暑さは年々深刻化していますが、その原因は地球温暖化だけではありません。私たちの住環境が生み出すヒートアイランド現象は、家の暑さにどう影響しているのでしょうか。

ヒートアイランド現象とは

ヒートアイランド現象とは、都市部の気温が郊外よりも高くなる現象のことです。アスファルトやコンクリートが太陽熱を蓄え、夜間になってもその熱を放出し続けるため、気温が下がりにくく寝苦しい夜が続きます。
東京都心部では郊外と比べて3〜5度も気温が高くなることがあり、真夏日には夜間でも気温が30度を下回らない『超熱帯夜』となる日が増加しています。
この現象が、エアコンの冷房需要を押し上げ、さらなる排熱増加という悪循環を生んでいます。

住まいで起きる小規模ヒートアイランド

ヒートアイランド現象は都市全体の問題ですが、エアコンの室外機からの排熱が隣地に影響したり、庭をコンクリートで固めることで局所的に温度が上昇したりと、個人住宅レベルでも似たような現象が起きています。
特に問題となるのが、複数の住宅の室外機が密集している場所。排熱同士が重なり合い、周囲の気温を数度押し上げることも。家が密集していれば、駐車場のアスファルトや玄関アプローチのコンクリート面積も増え、暑さを持続させる原因となります。
こうした住宅周辺の温度上昇は、家の中に入ってくる外気温度を押し上げ、エアコンの効率を低下させます。いくら高性能な断熱材を使っても、建物を取り巻く環境が暑ければ、根本的な涼しさは得られません。


暮らし方の工夫で“涼”をつくる

建物の設計上の工夫だけでなく、日々の暮らし方を少し変えるだけでも、驚くほど涼しく過ごせるようになります。風通しや緑の活用、日差し対策など、すぐに実践できる涼の取り方をご紹介します。


風を上手に取り入れる

風を通すための基本は、風の入口と出口をセットで考えることです。対角線上の窓を開けることで、効率的に風を通すことができます。窓を半開きにするときは、風下側に網戸を配置すると、より多くの風を室内に導けます。

また、風には時間帯による特性があります。早朝の冷たい空気を低い位置の窓から取り込み、日中は高い位置の窓から熱気を排出。夕方以降は対流を利用して家全体の空気を入れ替えることで、効果的に涼しさを確保できます。

すだれ・よしずで日差しを遮る

夏の強い日差しを遮ることは、室温上昇を防ぐ最も効果的な方法の一つです。すだれやよしずを窓から少し離して設置することで、すだれと窓の間に風の通り道ができ、より涼しく感じられます。

カーテンやブラインドは室内で日射を遮るため、熱のカット効果は約50%程度ですが、すだれのような外付け遮蔽なら約80%もの熱をカットできます。朝の東日、夕方の西日対策には、可動式のすだれが特に有効です。

緑の力で涼しさをつくる

植物は、蒸散作用によって周囲の気温を下げる効果があります。ベランダや窓際にゴーヤやアサガオなどのつる性植物を這わせるグリーンカーテンは、壁面の温度上昇を防ぎ、時には周辺の気温が2〜3度下がることも。

また、庭やアプローチに芝生や下草を植えれば、照り返しによる暑さを大幅に軽減でき、アスファルトやコンクリートの表面温度が60度を超える真夏日でも、芝生の表面温度は30度程度に保たれます。

打ち水の科学的効果

打ち水は、水が蒸発するときに周囲の熱を奪う気化熱を利用した、理にかなった冷却方法です。効果的なタイミングは、朝の涼しい時間帯か、夕方の日が傾いてから。昼間の炎天下に打ち水をしても、すぐに蒸発してしまい、かえって湿度が上がって不快になることがあります。

打ち水は、場所も重要です。日陰になっている部分や、風の通り道に撒くことで、より長時間効果を持続させることができます。雨水を貯めておいて打ち水に使えば、水道代の節約にもなりますよ。

メリハリある換気

夏の換気には、メリハリが大切です。外気温が室温より低い早朝と夜間にしっかりと換気し、外が暑くなる日中は窓を閉めて室内の涼しさを保ちましょう。

特に重要なのは、夜間の放射冷却を活用すること。晴れた夜は、地表の熱が宇宙空間に放射されるため、明け方にかけて気温が下がります。この涼しさを室内に取り込み、日中まで持続させることで、エアコンの使用時間を短縮できます。

熱源を減らす調理法

夏の暑さを和らげるには、室内の熱源を減らすことも効果的です。ガスコンロよりもIHクッキングヒーター、電子レンジやトースターを活用した調理法、下ごしらえを涼しい時間帯に済ませておくなどの工夫で、キッチンからの熱の発生を抑えられます。

冷たい料理を増やすのも一つの方法。冷やし素麺やそうめん、冷製パスタ、冷たいスープなど、冷やして食べる料理で体の内側からクールダウンしましょう。

室内レイアウト

家具の配置を変えることで、風の通り道を改善できます。風上の窓の前に大きな家具を置くと、風が遮られてしまいます。風の流れを意識して、背の低い家具を選んだり、壁際に寄せたりすることで、室内の空気循環が良くなります。

扇風機やサーキュレーターの位置も重要です。窓際に置いて外から内へ風を送るよりも、室内の奥に置いて空気を循環させる方が効果的な場合があります。


昔ながらの知恵を現代に活かす

昔ながらの知恵を現代の住宅に取り入れるには、最新の技術との組み合わせ方がポイントです。ライフスタイルや地域性も考慮した、実践的な応用方法を探ってみましょう。


昔の知恵+現代技術

現代の住宅では、高性能な断熱材や気密性能と、自然通風をいかに両立させるかが重要なカギとなります。自然の風を活用しつつ、高断熱・高気密仕様でエアコン効率を高めましょう。
外構計画も重要な要素の一つ。ブロック塀よりも、風が通りやすいフェンスを。庭や玄関まわりに植栽を取り入れれば、小規模ヒートアイランドの緩和にも。
太陽光発電システムと蓄電池を組み合わせれば、昼間の暑い時間帯にエアコンを使っても、環境負荷を抑えることができます。

昔ながらの涼の取り方でエアコンの使用時間を減らし、必要な時だけ自家発電の電力で冷房を使う。古い知恵と新しい技術の理想的な組み合わせといえそうです。

地域性とライフスタイルに合わせた設計

豪雪地帯や寒冷地では、夏の通風と冬の断熱のバランスが特に重要です。二重窓や内窓を活用すれば、夏は内窓を開けて通風を確保し、冬は閉めて断熱性能を高めることができます。
共働き家庭では日中家に誰もいないことが多いため、自動化やタイマー機能を活用した涼の取り方が有効です。朝出かける前に日除けを設置し、帰宅前にタイマーで換気を開始するなど、ライフスタイルに合わせた工夫が求められます。
さらに、メンテナンス性も考慮が必要です。植栽は美しく涼しさを提供してくれますが、剪定や水やりなどの手入れが必要です。忙しくて手が回らないという方は、自動潅水システムの導入なども検討しましょう。


地域別・住まいの涼しい工夫事例

日本各地の気候風土に根ざした住まいには、それぞれ独特の涼の取り方があります。地域の特性を活かした工夫を参考に、あなたの住まいに合った方法を見つけてみませんか。


京都の通り庭と格子窓

京都の町家は、間口が狭く奥行きの深い敷地に建っています。そこで、独特の通風システムが発達しました。表通りから裏庭まで続く「通り庭」は、都市部でも効率的に風を通すための知恵。格子窓は、外からの視線を遮りながら光と風を取り入れます。

沖縄の赤瓦屋根と高床式

亜熱帯気候の沖縄では、強い日差しと高湿度に対応した建築が発達しました。赤瓦屋根は、厚みのある瓦が断熱層の役割を果たし、屋根裏の温度上昇を抑えます。
高床式の住居は、床下の通風により湿気対策を行うと同時に、1階部分を日陰の涼しい空間として活用していました。


まずは、夏の暮らしを見直すことから

夏を涼しく過ごす住まいは、建物の性能だけで実現できるものではありません。建物と周辺環境、そして住まい手の暮らし方が一体となって初めて、本当の涼しさが生まれます。
昔の日本人が培った自然の涼を取る知恵——風の道をつくる間取り、日差しを遮る軒や植栽、調湿性能を持つ自然素材、打ち水や換気のタイミング——これらを現代の技術と組み合わせることで、エアコンに頼りすぎない快適な住まいが実現できます。

木陰に涼み、風に涼む。そんな自然の恵みを味方につけた暮らしは、省エネルギーで環境にやさしいだけでなく、私たちの心にも豊かさをもたらしてくれます。猛暑の夏を、自然の涼と共にしなやかに乗り越えていきましょう!