Pantoneが史上初めてホワイト系を『カラー・オブ・ザ・イヤー』に選び、アメリカの不動産データ企業Zillowが公開した数百万件の物件分析では“職人技”や“ウェルネス”といった言葉の急増が報告されました。
一方、日本ではSUUMOリサーチセンターの調査で注文住宅の建築費が過去9年の最高値を更新し。国土交通省による省エネ基準適合の義務化も本格始動しています。コスト高と規制強化という逆風のなかで、令和8年(2026年)の家づくりはどこへ向かうのか。日米の一次データを横断的に読み解くと、ひとつの共通メッセージが浮かび上がってきます。



2026年の住宅市場──「高くなった家」にどう向き合うか

SUUMOリサーチセンターが公表した『2025年 注文住宅動向・トレンド調査』によると、注文住宅の建築費は全国平均で3,488万円。前年よりさらに73万円上がり、過去10年間で最高値を更新しました。一方で延べ床面積は平均41.1坪と縮小が続いており、”家が高くなり、小さくなっている”傾向が鮮明です。世帯年収1,000万円以上の建築者は全体の34.3%と、前年の30.5%から増加しています。
制度面でも大きな変化がありました。2025年4月に施行された建築物省エネ法の改正により、原則すべての新築住宅に断熱等級4以上の省エネ基準適合が義務づけられています。つまり2026年は、”断熱性能の低い新築”が市場からほぼ消える最初の年。同じSUUMOの調査では、ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)を知っている人のうち実際に導入した割合が47.1%と半数に迫り、とくに30代では54.3%に達しています。
「安く建てる」という選択肢が狭まるなかで、”何にお金をかけ、何を手放すか”の判断がこれまで以上に重みを持つ時代。裏を返せば、「本当に自分たちに必要なもの」を見極める力が問われているとも言えます。ここから先に述べるトレンドは、すべてこの背景のうえに成り立っています。


世界が選んだのは「静けさ」──色と素材に見る共通点

住宅のインテリアを方向づける色のトレンドに、興味深い動きが起きています。
Pantone Color Institute(パントン・カラー・インスティテュート)が2026年の『カラー・オブ・ザ・イヤー』に選んだのは『Cloud Dancer』(PANTONE 11-4201)。やわらかなオフホワイトで、Pantone史上初めてのホワイト系です。公式が掲げたテーマは”静かな安らぎ”と”新しい始まり”。刺激的な色ではなく、余白のある白が世界の基準色に選ばれたのは象徴的ですね。


一方で、白一色の時代が来るわけでもありません。7,000万人以上のユーザーを持つ住宅デザインプラットフォームHouzzは、2026年の予測としてトラディショナルスタイルの復権と暖色系アースカラーの台頭を挙げています。オーカー、マスタード、ハニーといった落ち着いた黄みのある色が、キッチンやリビングのアクセントとして支持を集めているとのこと。Houzzの『Kitchen Trends Study』(=キッチントレンド調査)でも、トラディショナル志向は前年比5ポイントの上昇が確認されています。
さらに面白いのがZillowのデータです。物件紹介文において、壁・天井・家具を同系色で統一する”カラードレンチング”への言及が前年比149%増。ニュートラルカラー一辺倒だった時代から、自分の好きな色で空間を染め上げる動きが加速しています。
「白」と「色の大胆さ」。一見矛盾するように見えますが、共通しているのは”なんとなく無難な色”を選ぶ時代の終わりです。自分の感性に正直に色を選ぶ──その先にある静けさや温かみが、2026年のインテリアの軸になりそうです。
日本の住宅に置き換えるなら、白を基調にしつつも、漆喰の微妙な陰影や無垢材の色味で”静けさの中の表情”をつくる方向でしょうか。リビングの一面だけをオーカーやテラコッタの塗り壁にする、キッチンの背面タイルにハニーカラーを選ぶ──そんな”一点だけの冒険”が、空間全体に奥行きをもたらしてくれます。


「触れる」デザインの時代──素材の手触りと、職人技への再評価

色の次は、素材。2026年のデザイントレンドは”見た目”から”触り心地”へと、明確に軸足を移しています。


手触り──”見る”から”触れる”へ

Houzzが注目トレンドに挙げたのが”テクスチャーレイヤリング”。これは壁面に塗り壁、タイル、石、木といった異なる素材の触感を重ねていく手法で、フラットで均一な壁から”表情のある壁”への移行を意味します。
Zillowのデータにも同じ傾向が表れています。物件紹介文で”ウェルネス設備”への言及が33%増、”スパ風”が22%増。浴室や水回りを「身体をいたわる場所」として設計する流れが強まっています。
背景にあるのは、画面越しの生活への反動でしょう。スマホやPCでは再現できない「触れて心地よい」感覚が、素材選びの新しい基準になりつつあります。漆喰や珪藻土の塗り壁に指先で触れたときの微細な凹凸、無垢フローリングを素足で歩いたときの温かさ、タイルのひんやりとした冷たさとの対比──こうした「触感のコントラスト」が、空間に奥行きを生みます。

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職人技──”均一”から”手仕事”へ

素材の魅力を引き出すのは、それを扱う人の技術です。Zillowの分析では、物件紹介文に”artisan craftsmanship”(=職人の手仕事)が登場する頻度が21%増加。”ヴィンテージアクセント”も17%増えています。
Houzzの予測でも、工業製品的な均一さよりも、手仕事ならではの”ゆらぎ”に価値が置かれる時代への転換が指摘されています。塗り壁に残るコテの跡、名栗加工の刃跡、丁寧に揃えられたタイルの目地。仕上げの精度がそのまま空間の品格を決める──そんな価値観が、世界的に広がっています。
量産品では表現しにくいこの領域は、腕のある職人があってこそ成り立つものです。

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「性能」は語るものから、満たすものへ

住宅の性能に対する意識も、大きな転換点を迎えています。
省エネ基準適合の義務化によって、断熱・気密は”アピールポイント”ではなく”最低条件”に変わりました。少し前まで『高気密高断熱』を前面に打ち出していた住宅会社も、2026年はその先を問われます。
Zillowのデータでは”ゼロエネルギー対応住宅”への言及が前年比70%増。家庭用蓄電池は40%増、EV充電設備は25%増と、エネルギーの自給自足に対する関心が一段と高まっています。SUUMOの調査でもGX志向型住宅(脱炭素に配慮した住宅)の認知率は49.6%に達し、若い世代ほどその導入に積極的。
ただし、設備を積み上げるだけが正解ではありません。自然の光、風、熱を設計で活かすパッシブデザインの考え方と組み合わせることで、機械に頼りすぎない快適性が実現します。たとえば、夏は深い軒で日差しを遮り、冬は低い太陽光を室内に取り込む。窓の配置で風の通り道をつくり、エアコンに頼る時間を減らす。こうした”建物そのもので快適さをつくる”発想が、設備偏重の時代の次に来るアプローチです。「性能がいいのは当たり前。その上で、どんな住み心地をつくるか」。それが2026年の問いとなります。

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備える家──「日常」と「非日常」、2つのリスクに向き合う

さらに、機能面においては”備え”という言葉の意味が、じわじわと広がっています。


慌ただしい毎日に備える

共働き・子育て世帯にとって、間取りのムダは時間のムダに直結します。SUUMOが提唱する”スペパ”(=スペースパフォーマンス)は、延床面積を抑えて建築費を最適化しつつ、動線と収納で暮らしやすさを確保する考え方。Houzzの予測でも、一つの壁面に収納・ディスプレイ・ワークスペースを兼ねる多機能造作収納がトレンドとして挙げられています。
帰宅したらクローゼットでコートをかけ、洗面で手を洗い、そのままリビングへ。朝の支度も夕飯の準備も、動線がひと続きになっているだけで驚くほどスムーズになります。


災害に備える

もうひとつの”備え”は、万が一の場合に向けられています。
Zillowの調査で目を引くのが、災害対策に関する言及の急増。”洪水対策”が64%増、”防火帯造園”が36%増、”防火システム”が28%増。気候変動のリスクが、住宅選びの重大な判断基準になっていることがわかります。
日本も例外ではありません。頻発する地震、激甚化する豪雨、年々厳しくなる猛暑。耐震等級3の取得、基礎の嵩上げや止水板による水害対策、遮熱・通風を考慮した間取り設計──こうした「見えない性能」への投資が、もはや特別なことではなくなっています。

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小さくても「自分の居場所」がある間取り

効率のよい動線と並んで注目したいのが、”自分だけの居場所”をつくる設計です。
SUUMOの調査では平屋を選んだ人の割合が25.3%に達し、年々増加しています。ワンフロアで生活が完結する平屋は、老後の暮らしやすさだけでなく、家事動線の短さや家族との距離感の近さも魅力。そこに中庭を組み合わせれば、外からの視線を遮りながら光と風を取り込む、プライベートな”外の居場所”が生まれます。
室内にも同じ発想が広がっています。Zillowのデータでは、物件紹介文に”リーディングヌック(読書スペース)”が登場する頻度が48%増。窓辺のベンチや階段下の半個室、造作本棚に囲まれた小さなコーナーなど、リビングの一角につくる”おこもりスペース”の人気が急上昇しています。
家族と同じ空間にいながら、ゆるやかに仕切られた自分だけの場所がある。スマホから離れて本を読む、コーヒーを飲む──そのための数平米には、「広さ」とは違う豊かさがあります。
コンパクトな家だからこそ、こうした”余白の設計”が暮らしの満足度を左右するのでしょうね。

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2026年の家づくりに通底するもの

ここまでの流れをひと言にすると、「刺激より安心、量より質、見た目より手触り」。
Pantoneが選んだ静かな白。Zillowのデータが示す職人技への回帰。Houzzが予測するトラディショナルスタイルの復権。SUUMOが記録したZEH導入率の過去最高──。
住宅価格の高騰も、省エネ基準の義務化も、たしかに制約です。けれど同時に、”本当に必要なものは何か”を立ち止まって考えるきっかけでもあります。
2026年の家づくりは、流行を追いかけることではなく、「この家でどう暮らしたいか」から始まるものになりそうです。色も、素材も、間取りも、性能も──選ぶ基準はすべて、自分たちの暮らしの中にあります。

執筆者プロフィール

石綿 悟美
二級建築士/宅地建物取引士

» 建築設計事務所にて、確認申請や意匠・構造を含む実施設計図の作成、構造計算等の実務に従事。
» CADオペレーターとして公園設備や保育施設、土木現場、化学工場など、住宅以外の幅広い分野を経験。
» 建設会社の住宅部門にて、建築家との協働による注文住宅の営業を担当。お客様と建築家の間に立ち、設計の意図を伝え、暮らしの希望を形にする仕事に携わるなかで、「住宅について本当に知りたいことと、世の中に出回っている情報のあいだには、大きなズレがある」と感じるようになる。

その後、フリーの住宅ライターに転身。現在は合同会社カメレオン企画の代表として、住宅・建設業専門のコンテンツ制作に携わるほか、建築専門書籍の編集・リライトも手がける。
「住まいの内緒話」は、設計も営業も経験した住宅の【中の人】が、売る側の都合ではなく、住む人の目線で書く住宅メディアです。ネットに溢れる情報の「それ、本当?」に、できるだけ正直に答えていきたいと思っています。