住宅営業として多くのお客様と向き合ってきた中で、土地の条件に悩まれるケースは少なくありません。とくに“採光”の問題は、家づくりにおいて避けては通れない重要なテーマ。
本日は、設計力と提案力に定評のある住宅会社で培った経験をもとに、実際にあった事例をご紹介します。
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譲り受けた土地、でも条件は厳しく…

ある日、30代前半のご夫婦が相談にお越しになりました。奥様が第一子を出産されたばかりで、マイホームへのあこがれが一気に現実味を帯びてきたタイミングでした。
「主人の両親から土地を譲り受けることになったんですが、いろいろと気になることがあって…」
どこか煮え切らない表情の奥様。マイホームへの期待の中に、不安が入り混じっているようです。
よくよくお話を伺うと、ご両親から譲り受けたというその土地には、確かに悩ましい条件が揃っていました。
間口があまり広くなく、面積もさほど大きくない。車2台分の駐車場をギリギリ取れるくらいの広さです。さらに問題だったのは、南側の敷地境界ギリギリにかなり大きな家が建っていること。10年ほど前に某大手ハウスメーカーが建てた家で、2階建てながら周囲の戸建てよりも頭ひとつ抜けたような威圧感があるとのこと。
「だから、日当たりが心配で……」
一般的に、南側からの採光は住宅設計の基本中の基本。奥様の心配はもっともです。
他社の提案に、どうしても納得できず

ご夫婦はそれまでにも、大手ハウスメーカーを中心に4社ほどの住宅会社へ相談に行き、プランの提案もしてもらったそうです。
うち3社が提案したのは、建物をギリギリまで北側に寄せて、南側を敷地境界から2mほど空けたプラン。残りの1社は2階リビングだったそうです。
しかし、
南側を申し訳程度に空けただけで、本当に採光が得られるのか――。
不安は拭えません。
2階リビングは、採光の面では「ちょっといいな」と思ったものの、老後の心配はもとより、これから本格的な育児が始まる中で、2階を主体とした生活は少し大変なのではないだろうかと思うと、どうしても首を縦に振ることができませんでした。
ひとまず、設計士と一緒に現地調査へ

ただ机上で話し合っていても埒が明かないので、早速、経験豊かな設計士をともない現地調査へ。
設計士は南側の建物を見上げ、しばらく考え込んでいましたが、やがて口を開きます。
「これだけの至近距離でこんな家が建ってたら、どんなに南側を開けても採光はとれませんよ」
それから、ぐるりと周囲を見渡し、計測しながら敷地の内外をくまなく歩き回ります。
敷地は、東道路。正確には、北東です。
設計士曰く、南側の隣家がこちらの敷地ギリギリに建っているだけでなく、道路境界にもギリギリまで近づけて建てているため、東からの採光もこちらの敷地にはわずかに届く程度だと。
しかも、冬になると雪が積もるこの地域では、道路に面してカーポートが必要になる可能性もある。そうなると、間口があまり広くないだけに、道路側からの採光にも期待できない。
今度は奥の方へと進んでいきます。
敷地の裏側。南寄りの半分は、やはり敷地境界ギリギリに家が建っています。しかし、西寄りの間口の半分だけは、何もなく、視界がそのまま向こうの道路へと抜けるようになっています。
設計士がおもむろに口を開きました。
「ここから採光をとりましょう」
西側からの採光、そして坪庭

後日、設計士が提案してきたプランを見て、ご夫婦は驚きを隠せませんでした。
「西側から採光をとる?」
しかし、設計士の説明を聞くうちに、その理由が明確になっていきます。
この敷地条件では、南側からの採光はまったく期待できないこと。東側からの採光も、ほとんどとれそうにないこと。
唯一、西側からなら光を入れることができるのと、この西側のぽっかりと空いた部分は、いわゆる旗竿地の竿部分になっているため、今後も家が建つことはない。
そこで、北西側に縦長のLDKを。西側の窓だけでは部屋の奥が暗くなってしまう可能性があるので、屋根を差し掛けにして高窓を設置。これなら、部屋の奥まで光が届くし、空気の流れもできる。
さらに、南側の居室や水まわりが暗くならないよう、坪庭を設けて間接光を。
設計士の説明を聞くうちに、ご夫婦の表情が目に見えて明るくなっていくのがわかりました。
“夏の西日”というリスク

ただし、西側からの採光には西日の問題がつきものです。とくに夏の強烈な西日は、室内温度を急上昇させる原因にもなり得ます。
「だから、この辺に落葉樹を植えてあげるといいですよ」
そう言いながら、設計士は窓の西側の掃き出し窓の外に木のイラストを描いてみせます。
夏には葉が茂って日差しを遮り、冬には葉が落ちて日光を室内に取り込む。自然の力を利用した、理にかなった提案。
冬場は西日でLDKが暖められ、帰宅後までその暖かさが持続するという副次的な効果も期待できます。
「西側からの採光なんて考えもしませんでしたが、確かにこれなら明るい家になりそうです」
奥様の不安も解消され、期待に満ちた笑顔が広がります。
家づくりは“土地との対話”から始まる

注文住宅における採光計画は、単純に「南側に大きな窓を」という発想だけでは解決できないケースが多々あります。
だからこそ、その土地の特性を徹底的に分析し、最適な解決策を見つけ出すことが求められます。
南側の採光にこだわらないこと、高窓や坪庭の活用、落葉樹による自然な日射調整。これらの提案は、マニュアル通りの設計では生まれない、土地の個性を活かした解決策といえるでしょう。
家づくりにおいて、土地の条件は変えることができません。しかし、その条件をどう活かすかは、設計次第で大きく変わります。大切なのは固定概念にとらわれず、その土地が持つポテンシャルを最大限に引き出すこと。注文住宅の醍醐味は、まさにこうした”不可能を可能にする”設計力にあります。
どんな土地でも、必ず最適な解決策が存在する。それを見つけ出すのが、注文住宅をつくるプロの役割ではないでしょうか。
執筆者プロフィール
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二級建築士/宅地建物取引士
» 建築設計事務所にて、確認申請や意匠・構造を含む実施設計図の作成、構造計算等の実務に従事。
» CADオペレーターとして公園設備や保育施設、土木現場、化学工場など、住宅以外の幅広い分野を経験。
» 建設会社の住宅部門にて、建築家との協働による注文住宅の営業を担当。お客様と建築家の間に立ち、設計の意図を伝え、暮らしの希望を形にする仕事に携わるなかで、「住宅について本当に知りたいことと、世の中に出回っている情報のあいだには、大きなズレがある」と感じるようになる。
その後、フリーの住宅ライターに転身。現在は合同会社カメレオン企画の代表として、住宅・建設業専門のコンテンツ制作に携わるほか、建築専門書籍の編集・リライトも手がける。
「住まいの内緒話」は、設計も営業も経験した住宅の【中の人】が、売る側の都合ではなく、住む人の目線で書く住宅メディアです。ネットに溢れる情報の「それ、本当?」に、できるだけ正直に答えていきたいと思っています。
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