私は、雨の日がけっこう好きです。もちろん外出する日は晴れている方がよいのですが、家の日はザーザー降るほど、気分が落ち着きます。窓を少し開けて、雨が降りしきる音を聞いていると、なんだか時間がゆっくりと流れてゆくような気がしませんか?
雨というベールの向こうに広がる景色も、いつもとは少し違って見えます。まるで、自分ひとりの世界にいるような、守られた感じ――。

そんな日には、窓をほんの少しだけ開けてみる。
それだけで、空気も気分もすっと軽くなっていくのがわかります。


雨の日の換気って、していいの?


「雨の日は、窓を開けない方がいい」
なんとなく、そう思っている方も多いのではないでしょうか。

だけど、外の湿気が気になるからといって、部屋の中の湿度が上がっているのに窓を開けないのは、実は逆効果。調理や入浴、洗濯物の部屋干し、そして人が過ごすことで発生する水蒸気によって、ときに24時間換気だけでは排出できないほど、室内にはどんどん湿気がたまっていきます。そうと気付かぬうちに、カビやダニの温床になってしまうことも。

だからこそ、雨の日でも“窓開け換気”は必要。「湿度が高いな」と感じたら、雨の日でも気にせず窓を開けましょう。


湿気対策に“やさしい”窓の開け方

換気といっても、何時間も窓を全開にしておく必要はありません。ほんの少しだけ、ちょっとの間だけ――。これが、雨の日のちょうどいい窓の開け方。


5cmだけでも風は通る

雨の日に窓を全開にすると、雨が吹き込んでしまいます。だから、開けるのは5cm~10cm程度でOK。きちんと風の通り道をつくってあげれば、それだけでも十分に室内の湿気は飛ばせます。
風の通り道をつくるためには、部屋の2か所の窓を開けます。出口と入り口があるだけで、空気が循環しやすくなり、やさしい風がすっと部屋の中を通り過ぎていきます。とくに、対角線上の位置にある窓を開けるか、高窓を開けて風の通り道に高低差をつけると、より効率よく換気できますよ。

5分程度でも大丈夫

窓を開けるタイミングも意識してみましょう。
窓を開けるのに適した時間帯は、午前中からお昼前。この時間帯なら雨の日でも外気がやや乾いてくるので、外からの湿気を取り込みにくくなります。朝は部屋の湿度が高い状態にあるので、そういう意味でも朝の換気は湿気対策に効果的。
開ける時間は5分~10分程度。これでも、室内の空気を大きく入れ替えるには十分です。朝起きたとき、あるいは出勤前に、ちょっとだけ窓を開けて換気をしてから出かけましょう。


実は、雨にもこんな効果が


雨は、ただわずらわしいもの、憂鬱なもの。本当にそうでしょうか?
実は、私と同じように「雨が好き」「好きではないけど、意外と嫌いじゃない」という人も、少なくないのではないでしょうか。

雨音がくれる、心のゆらぎ

雨音を聞いていると、なぜか落ち着く。
きっと、同じように感じている方はいるはずです。

この心地よさの正体は『1/fゆらぎ』(エフぶんのいちゆらぎ)と呼ばれる自然のリズムで、人の心と体をリラックスさせる効果があるといわれています。雨音、そよ風、波の音、揺れる炎、そして木漏れ日。この地球上に存在し、私たちが「心地よい」と感じるあらゆるものに、この1/fゆらぎがふくまれているといわれています。

ストレスの多い日常のなかで、自然の音に耳を傾けるだけで呼吸が深くなり、気持ちがほぐれていく。乱れた自律神経が、少しずつ整っていく――。
窓の外で奏でられる雨音を、生活のBGMに。そんな贅沢を、雨の日だけ楽しんでみるのもよいのでは?

視線を遮る、雨のカーテン

雨は、音だけでなく外の風景も変えてくれます。
白くけぶった山の稜線、雨粒でかすむ庭の景色。雨が激しいほど、まるで“雨のカーテン”が1枚かかっているかのように、窓を開けていても外からの視線が届きません。

この“守られている感覚”も、雨の日の癒し効果のひとつ。
誰かの目を気にせず、窓を開けて、自分だけの時間に浸る。そんな静かな感覚を呼び覚ましてくれるのが、雨の日の風景です。

雨の匂いで、ほどける心

窓を少しだけ開けたとき、ふわっと地面から立ち上る雨の匂い。小学生の頃、雨の日の下校時間にかいだ匂い。どこか懐かしくて、心がほどけるようなこの香りは『ペトリコール』といいます。
乾いた土に雨がしみ込み、植物の油分や土中の微生物によって生まれる自然の芳香。この匂いをかぐことで、私たちは季節の移ろいや自然の営みを無意識に感じ取り、幼少期の記憶を手繰り寄せながら、なんとなく安心するのかもしれません。

雨の日には窓を開けて、思い切り深呼吸してみてください。あの懐かしい匂いに、ふと心がほぐれていくはずです。


雨の日でも窓を開けて過ごしたいなら

窓を開けたいのに、開けられない。だって、雨が吹き込んできてしまうから――。
その点、軒や庇があれば、少しくらい窓を開けても平気。もちろん、風の方向にもよりますが。

我が家は、1階のテラスと縁側の軒がかなり深いので、雨の日でも窓を全開にできます。暴風でもない限り、雨が吹き込むことはありません。窓を開けて過ごすだけでなく、掃き出し窓の外のデッキに座って、降りしきる雨を眺めて過ごすことだってできてしまいます。

ちょっと窓を開けて換気をするだけなら、内倒し窓や縦すべり出し窓など、雨が入りにくい形状の窓を選択するのもひとつの方法。
周囲の視線が気にならない配置にすれば、開けることへの心理的ハードルも下がります。


湿気対策=空気を循環させる


昔の家は、夏になると田の字の和室の襖をすべて取り外し、1階部分をひとつの大広間として使いました。仕切りを取り去ることで、風通しをよくする。日本の民家には、そんな古くからの知恵が詰まっています。

今の家も、間仕切りの少ないオープンな間取りが主流。風通しという意味では、このトレンドは理にかなっているといえそうです。
人気の吹き抜けも、1階の窓と2階の部分の窓を開けることで、重力換気により風が通りやすくなります。

» 気温の変動が激しい季節は、パッシブデザインで対応!

湿気対策にも方法はいろいろありますが、窓開け換気を取り入れるのであれば、このように空気の循環を意識して設計することが大切です。

また、クローゼットや押し入れの中は空気が滞留しやすいので、窓開け換気の際には収納部分も開け放って、空気を入れ替えてあげましょう。


窓を開けて、心に余白を


「湿気対策のために窓を開ける」
それはきっと、暮らしを整えるためのひとつの手段。だけど、それだけではありません。
「ふっと深呼吸したくなる」
「ちょっと気分を入れ替えたい」
「たまには外の空気に触れてみたい」
窓開けによる換気は、そんな瞬間をもたらす癒しの時間にもなってくれるのです。

窓を少し開けてみる。
鬱々とした雨の日だからこそ、窓を開けて気分を変えてみる。

たったそれだけのことで、家の中だけでなく、私たちの心の中にも涼やかな風が通っていくに違いありません。