打ち合わせが進んでいくと、あるタイミングで「オール電化?ガス併用?」という選択を迫られます。
間取りや外観にはあれほど時間をかけたのに、エネルギーのことはなんとなくの印象で決めてしまう——意外とそういう人は多いものです。
「オール電化のほうがなんとなく安そう」
「IHは掃除がしやすそう」
「でも、ガスのほうが料理は美味しそう」
そのくらいのイメージで選んでしまうと、住みはじめてから「あれ、困ったな……」となることもあるかもしれません。
ガスを引くか、オール電化にするか。この選択ひとつで、毎月の光熱費だけでなく、キッチンの使い勝手や災害時の備え、さらには住宅設備の初期費用まで変わってきます。つまり、「オール電化か」「ガス併用か」は、暮らしのかたちそのものに関わる判断なのです。



電気代とガス代、そもそもどう計算される?

光熱費を考えるときに意外と見落としがちなのが、電気とガスの料金の”上がり方”。この仕組みを知っているかどうかで、オール電化とガス併用、どちらが自分たちの暮らしに合っているかの見え方が変わってきます。


電気料金は”使うほど高くなる”三段階制

一般家庭の多くが契約している「従量電灯」というプランでは、電気の使用量に応じて1kWhあたりの単価が段階的に上がっていきます。これが”三段階料金制度”と呼ばれるものです。
東京電力エナジーパートナーの従量電灯Bを例にとると、単価はこのように変わります。

区分使用料1kWhあたりの単価(税込)
第1段階最初の120kWhまで29.80円
第2段階120kWhを超え300kWhまで36.40円
第3段階300kWh超過分40.49円

東京電力EP|従量電灯B・C料金表より(燃料費調整額・再エネ賦課金を除いた基準単価)

月々の電気代は、ざっくりこういう構成になっています。

電気料金 = 基本料金 + 電力量料金(三段階制)+ 燃料費調整額 + 再エネ賦課金

注目したいのは、使えば使うほど”単価そのもの”が高くなるという構造です。月120kWhまでなら29.80円で済む電気が、300kWhを超えた分は40.49円。同じ1kWhでも、たくさん使う家庭ほど割高になる。この料金体系を、頭の片隅に置いておいてください。
なお、オール電化住宅向けの料金プラン(東京電力の『スマートライフS』など)は、この三段階制ではなく”時間帯別料金”を採用しています。夜間の電気代が安くなる代わりに、昼間は割高。エコキュートで深夜のうちにお湯を沸かしておく前提で設計されたプランです。
(東京電力エナジーパートナー » 従量電灯B・C
(東京電力エナジーパートナー » 料金単価表‐電灯
(東北電力 » 従量電灯B


ガス料金は”使うほど単価が下がる”逆転の仕組み

一方、都市ガスの料金体系は電気とはまるで逆の考え方で成り立っています。
都市ガスの料金は 基本料金 + 単位料金 × 使用量 で計算されますが、使用量が多い区分ほど、1㎥あたりの単位料金が安くなる。電気が”使うほど高くなる”のに対して、ガスは”使うほど安くなる”わけです。
東京ガスの一般料金(東京地区等)で確認してみましょう。

使用量区分基本料金(税込)基準単位料金(税込/㎥)
0㎥〜20㎥759.00円145.31円
20㎥超〜80㎥1,056.00円130.46円
80㎥超〜200㎥1,232.00円128.26円
200㎥超〜500㎥1,892.00円124.96円

東京ガス|ガス一般料金(東京地区等)より(基準単位料金は原料費調整前の値)

使用量の区分が上がると基本料金も高くなりますが、それ以上に1㎥あたりの単位料金が下がっていきます。月20㎥以内なら145.31円のところ、80㎥超では128.26円。同居家族が多く、お湯をたっぷり使うような世帯ほど、単価面ではじわじわと有利になっていく料金体系です。
(東京ガス » ガス一般料金
(東京ガス » ガス料金の計算方法
(東京ガス » ガス料金の従量料金とは? 基本的な計算方法やガスの種類・世帯人数による違い


この”逆転構造”が選び方のカギになる

ここまでの話を整理すると、見えてくるのはこういう構図です。

  • 電気は使うほど、1kWhあたりの単価が上がる
  • ガス(都市ガス)は使うほど、1㎥あたりの単価が下がる

これは、光熱費の選択を考えるうえでかなり本質的な話です。
たとえば、エネルギーの消費をなるべく抑えて暮らしたい”節約型”の家庭。使用量が少ないほど単価の安い電気に寄せる、つまりオール電化を選ぶという考え方は理にかなっています。
一方、お風呂は毎日たっぷり。共働きなのでガス衣類乾燥機(乾太くん)を使いたい。料理にもこだわりたい。そういう”充実型”の暮らしを思い描いているなら、たくさん使うほど単価が下がるガスの恩恵を活かせるかもしれません。
もちろん、これだけで答えが出るほど単純な話ではありません。ただ、この視点を持ったうえで以降のメリット・デメリットを読んでいくと、「自分たちはどちら側の暮らしをしたいのか」が少しずつ見えてくるはずです。


都市ガスとプロパンガス、料金はどれくらい違う?

ガス併用を検討するうえで、もうひとつ確認しておきたいのが「建築予定地に都市ガスの配管が通っているかどうか」です。
都市ガスが届いていないエリアでは、プロパンガス(LPガス)を使うことになります。この2つは、料金の仕組みも水準もかなり違います。

比較項目都市ガス プロパンガス(LPガス)
料金設定規制料金(認可制)に準ずる水準販売店が自由に設定
料金水準の目安相対的に安い都市ガスの約1.5〜2倍程度
熱量(1㎥あたり)約45MJ約99MJ(都市ガスの約2.2倍)
供給方法地中の配管から供給ボンベで個別配送

プロパンガスは1㎥あたりの熱量が都市ガスの約2.2倍あるので、単純な単価比較はできません。ただ、同じ熱量を得るための費用で揃えても、プロパンガスのほうが割高になる傾向は変わりません。
建築予定地が都市ガスの供給エリアかどうかは、ガス会社のウェブサイトや建築会社に確認すればすぐにわかります。もしプロパンガスエリアなら、オール電化のほうがトータルコストで有利になるケースが多いでしょう。これは、判断の大きな分かれ道になりそうです。
(東京ガス » ガス料金の従量料金とは? 基本的な計算方法やガスの種類・世帯人数による違い
(一般財団法人二本エネルギー経済研究所|石油情報センター » 一般小売価格LP(プロパン)ガス 確報(偶数月調査)


オール電化のメリット・デメリット

光熱費の一本化は、家計管理のシンプルさという意味で大きな魅力があります。その一方で、すべてを電気に委ねるからこそ生まれるリスクも。メリットとデメリットの両面を見ていきましょう。


メリット——基本料金の一本化、安全性、災害時の備え

オール電化にしてまず実感するのは、ガスの基本料金がまるごとなくなること。電気とガス、ふたつの固定費を毎月払っていたところが一本になる。金額の大小だけでなく、家計のシンプルさという意味でも、この違いは地味に大きいです。
安全面で言えば、IHクッキングヒーターが火を使わないということ。小さな子どもが走り回るキッチン、高齢のご家族が使うキッチン。「火が出ない」という事実は、数字には表れにくいけれど、日々の安心感に確実に効いてきます。
災害への備えも、オール電化ならではの強みがあります。エコキュートの貯湯タンク——一般的に370〜460リットルほどの容量——は、断水時に生活用水として使えます。飲用には向きませんが、トイレや手洗い、洗い物に使える水がタンク一本分あるのは心強い。さらに、過去の大規模地震のデータを見ると、電気はガスや水道に比べてライフラインの復旧が早い傾向があります。
(Panasonic » もしもの備え


デメリット——初期費用の高さ、昼間の電気代、停電リスク

オール電化には、気をつけておきたいこともあります。
まず、初期費用。エコキュートとIHクッキングヒーターをセットで導入すると、機器代と工事費を合わせて100万円前後になることもめずらしくありません。ガス給湯器+ガスコンロの組み合わせと比べると、入り口のハードルは高めです。
それから、電気代の”時間帯”の問題。オール電化向けの料金プランは夜間が安い代わりに昼間が割高。共働きで日中はほとんど家にいない生活なら気にならないかもしれませんが、リモートワークや育児で昼間も在宅する時間が長い家庭では、想定以上に電気代がかさむことがあります。
そして、停電。すべてのエネルギーを電気一本に集約しているということは、その一本が止まったとき、キッチンも給湯もすべてが止まるということ。エネルギー源がひとつしかないという点は、メリットの裏返しでもあります。
その他、「火を使わないから安心」な反面、高温になったトッププレートでのやけどの事故が多いといった危険性も指摘されています。


ガス併用のメリット・デメリット

電気とガス、ふたつのエネルギー源を持つということ。それは冗長さではなく、”選択肢の厚み”ともいえます。料理好きの方にとっては、調理面の自由度も大きな魅力のひとつではないでしょうか。


メリット——停電時の安心、調理の自由度、地域のガス事情

ガス併用の一番の安心材料は、停電してもガスコンロが使えること。電池式着火タイプのコンロであれば、電気が止まっていてもふつうに火がつきます。災害時、温かいものが食べられるかどうか。それはいざという時、想像以上の大きな差に。
調理の自由度も、ガスならではの魅力です。中華鍋をあおる。海苔を直火であぶる。鍋底に均一に火がまわる感覚。フライパンを傾けながらの微妙な火加減——こうした”火と対話する料理”は、IHでは再現しにくいものがあります。キッチンでの時間を大切にしたい人にとって、ガスコンロという選択肢はやはり捨てがたい。加えて、ガス衣類乾燥機『乾太くん』の人気も、ガス併用派を後押しする一因となっています。
光熱費の面では、先ほどの”逆転構造”が効いてきます。子どもが3人以上いる、あるいは二世帯同居しているなど、日常的にガスの消費量が多い世帯ほど、「使うほど単価が下がる」都市ガスの料金設計の恩恵を受けやすくなります。日中在宅の時間が長い家庭なら、オール電化プランの昼間割高を避けられるのもメリットです。


デメリット——二重の基本料金、火災リスク、プロパンの割高

ガス併用で一番わかりやすいデメリットは、電気とガスの両方で基本料金が毎月かかるということ。金額としてはそこまで大きくはないものの、固定費が2本立てになる点はやはり気になります。
火のリスクについても、ガスコンロを使う以上はゼロにはなりません。最近のガスコンロには消し忘れ防止や過熱防止のセンサーが標準装備されていますが、「そもそも火が出ない」IHと比べると、やはり意識の持ちようが違ってきます。
そして、プロパンガスエリアの場合。自由価格制のプロパンガスは都市ガスの1.5〜2倍ほどの料金水準になることもあり、ガス併用を選ぶと光熱費が想定以上にかさむ可能性があります。ガスを使う暮らしを選ぶなら、まず建築予定地のガス事情を確かめることが先決です。


エネファームという”第三の選択肢”

オール電化かガス併用か——二択で語られがちな光熱費の話ですが、実はもうひとつの道があります。ガスで電気をつくる『エネファーム』という選択肢です。


エネファームの仕組み——ガスから電気とお湯をつくる

『エネファーム』の正式名称は「家庭用燃料電池コージェネレーションシステム」。仕組みをかいつまんで言うと、都市ガスやLPガスから取り出した水素を、空気中の酸素と化学反応させて発電します。そして、その過程で生まれる熱を使ってお湯を沸かす。ひとつの装置から「電気」と「お湯」が同時に生まれる、というシステムです。
ガスを「燃やす」のではなく「化学反応させる」という仕組みなので、エネルギーの無駄が少ない。一般的な家庭で使う電力の約4〜6割をこれでまかなえるとされています。
(東京ガス » エネファーム(家庭用燃料電池)
(Panasonic » 家庭用燃料電池「エネファーム」


メリット——電気代の削減、停電時の安心感、優遇ガス料金

エネファームの魅力は、自家発電によって電力会社から買う電気そのものを減らせること。先ほどの三段階制——”使うほど高くなる”電気代の構造を思い出してください。購入量が減れば、単価の高い第2段階・第3段階の使用量がまるごと圧縮される。削減効果は、想像以上に大きくなります。
停電時の備えとしても頼もしい存在です。ガスと水の供給が続いていれば、停電中でもエネファームで発電と給湯ができる。オール電化にはない”もうひとつの電源”を、家のなかに持っておけるということです。
見逃せないのが、ガス会社各社が用意しているエネファーム専用の優遇料金プラン。たとえば東京ガスの『エネファームで発電エコぷらん』は、月の使用量が20㎥を超えると一般料金より単価が安くなる設計。冬場の給湯・暖房シーズンには、さらにお得な専用料金が適用されます。
(東京ガス » エネファームで発電エコぷらん (家庭用燃料電池契約)


デメリット——初期費用、設置スペース、ガス使用量の増加

エネファームの一番のハードルは、初期費用です。本体価格に設置工事費を加えると、150万円前後になることもあります。エコキュートやガス給湯器と比べると導入コストは高め。
設置スペースの問題もあります。発電ユニット、貯湯ユニット、バックアップ熱源機を屋外に置くため、敷地にはある程度の余裕が必要です。狭小地では設置が難しいケースも出てきます。
それから、ガスの使用量そのものは増えます。エネファームは発電にガスを使うため、導入前よりガスの消費量は確実に上がる。ただし、その分だけ電力会社からの購入電力が大きく減り、さらに専用の優遇ガス料金が適用されるため、光熱費のトータルでは削減傾向になるのが一般的です(「使うほど単価が下がる」都市ガスの料金設計も、ここでプラスに働きます)。
発電ユニットの寿命は10〜20年。20年を過ぎると発電機能は自動停止しますが、給湯機能はそのまま使い続けられます。なお、エネファーム単体では売電ができない点も押さえておきたいところです。


エネファームが向いている家庭、向いていない家庭

エネファームとの相性がいいのは、都市ガスエリアに暮らす、お湯の使用量が多いファミリー世帯です。発電と給湯を同時に行う仕組みなので、お湯をたくさん使う家庭ほどエネルギー効率が高まります。
逆に、プロパンガスエリアではガス単価の高さがネックになりやすい。発電で電気代を減らせても、ガス代そのものが割高だと効果が相殺されてしまいます。また、オール電化住宅ではそもそもガスの契約がないため、エネファームは導入できません。
最近注目されているのが、太陽光発電と組み合わせる”ダブル発電”という考え方。昼間はエネファームと太陽光パネルの両方で発電し、家庭の自家消費率をさらに高める。光熱費の大幅な削減と、停電への備えを同時に実現できる組み合わせです。


「うちはどっちが合ってる?」——ライフスタイル別の選び方


ここまで読んでみて、「なんとなく、こっちかな」という感触はあるでしょうか。同じ家族構成でも、日中の過ごし方やエネルギーの使い方が違えば、最適解は変わります。


オール電化が向いている暮らし

  • 共働きで日中は不在が多い 夜間の安い電力をフルに活かせるライフスタイル
  • 光熱費をできるだけ抑えたい”節約型” ガスの基本料金がなくなる
  • 安全性を重視したい 火を使わないキッチンは大きな安心材料
  • 太陽光発電を検討している 昼間の自家消費で、オール電化プランの”昼間割高”をカバー
  • プロパンガスエリアに家を建てる予定 ガス代の割高さを丸ごと回避できる

ガス併用(+エネファーム)が向いている暮らし

  • お湯を気兼ねなく使いたい”充実型” ガスの”使うほど安い”料金設計が活きてくる
  • 日中の在宅時間が長い リモートワーク世帯は、オール電化の昼間割高を避けたい
  • 都市ガスエリアに建てる予定 都市ガスの料金メリットをフルに受けられる
  • 料理にこだわりたい 直火調理、中華鍋、火加減の自由。ガスでしかできない料理がある
  • 停電リスクを分散させたい 電気とガス、二系統のエネルギー源を持てる安心感


迷ったときは、どうする?

ネット上にはさまざまな比較記事やシミュレーションがありますが、そこに出てくる数字はあくまで”平均”の話。自分たちの暮らしにそのまま当てはまるとは限りません。
世帯人数、日中の在宅パターン、建築予定地の気候、ガスの供給事情、住宅の断熱性能——条件は家庭ごとにまったく違います。さらに、電気もガスも燃料費調整額や政府の補助金によって毎月変動するため、「年間いくら安くなります」という固定的な答えは本来、出しようがない。
「ガスかオール電化か」は光熱費だけの問題ではなく、暮らしの快適さ、災害時の安全、初期費用とランニングコストのバランス、そして10年後・20年後のライフスタイルの変化。それらを総合的に判断するもので、つまり家の設計そのものと切り離せない話です。初期費用について住宅会社に相談しつつ、我が家は”節約型”か”充実型”か、どちらの暮らしをしたいのかをご家族で話し合ってみてください。
エコキュートとエネファームは国の補助金『給湯省エネ2026事業』も活用できます。
(住宅省エネ2026キャンペーン » 給湯省エネ2026事業

執筆者プロフィール

石綿 悟美
二級建築士/宅地建物取引士

» 建築設計事務所にて、確認申請や意匠・構造を含む実施設計図の作成、構造計算等の実務に従事。
» CADオペレーターとして公園設備や保育施設、土木現場、化学工場など、住宅以外の幅広い分野を経験。
» 建設会社の住宅部門にて、建築家との協働による注文住宅の営業を担当。お客様と建築家の間に立ち、設計の意図を伝え、暮らしの希望を形にする仕事に携わるなかで、「住宅について本当に知りたいことと、世の中に出回っている情報のあいだには、大きなズレがある」と感じるようになる。

その後、フリーの住宅ライターに転身。現在は合同会社カメレオン企画の代表として、住宅・建設業専門のコンテンツ制作に携わるほか、建築専門書籍の編集・リライトも手がける。
「住まいの内緒話」は、設計も営業も経験した住宅の【中の人】が、売る側の都合ではなく、住む人の目線で書く住宅メディアです。ネットに溢れる情報の「それ、本当?」に、できるだけ正直に答えていきたいと思っています。